アニー・リーボヴィッツ

art-study2008-10-25

 旅行へ行く時に、なるべく写真を撮りたくないと思っています。何かが起きた瞬間に、自分が見ているのはファインダーではなく、生の相手でありたい。そういう思いから、写真を撮ることに二の足を踏んでしまいます。
 写真で残さないと忘れていくことも当然あります。しかし、月日を経てなお残る思い出こそ、大切なんじゃないかなぁなんて思ってます。たとえば、小学生のとき薮の中を分け入って探検したこと。海外で出会って一緒に遊んで笑いあった子どもたちの笑顔。それらの記憶は未だに色あせていません。


 アメリカの女流カメラマン、アニー・リーボヴィッツの伝記的ドキュメンタリー。
 若いうちから才能を認められ、ロックミュージシャンなどの写真を撮っていた彼女。ローリングストーンズに密着し彼らの素顔を収めた写真は、アニー・リーボヴィッツを一躍時の人に押し上げました。
 数ある彼女の写真のなかで、おそらく一番有名なのはこの一枚。
http://cinematoday.jp/res/N0/01/22/N0012262_l.jpg
 「ジョンは裸になることもいとわず、愛する人にすがりついた。」オノ・ヨーコはこのように語ります。
 ジョン・レノンが妻であるオノ・ヨーコに裸のまま抱きついている写真は、すがるようでもあり赤子のようでもあり、また、彼女を包み込んでいるようでもあります。奇しくも、彼はこの撮影の数時間後、凶弾に倒れ帰らぬ人となりました。つまり、計らずとも彼の生前の姿を収めた最後の一枚となったわけです。


 文字通りアメリカの歴史を記録し続けているアニー・リーボヴィッツが、写真とは?と問われ答えた言葉が印象的でした。「写真はあくまでその瞬間を記録するだけであって、出来事のすべてを写しているわけではない。それを思い知った。」
 それでも、すべてを記録したいんだと語る彼女。写真という表現の限界を知ってなお、それでも可能性を信じる姿に感銘を受けました。