本を読んで、ちょっとした出会いがあった。

 中古書店で本を買った。
 最近は新書ばかり読んでいたので、軽いものを読みたいなぁなんて思って小説を何冊か手に取った。でも、小説って読んでる途中で止められないじゃない。(まぁ、だからなかなか小説を読まないんだけど)そこで、一冊、村上春樹の短編集を紛れ込ませた。なんで村上春樹かっていうと、まぁなんとなく。ノルウェイの森の宣伝を散々目にしているからかもしれない。
 通勤途中の電車内では、短編集っていうのは非常に重宝する。それも、短ければ短いほど良い。だって、話がクライマックスにさしかかっているのに、「新宿〜。新宿〜。」なんてアナウンスされた時には、落胆するよね。普通の人は。
 それが短編であれば、「あ、ちょうど切りがいい時に着いた。今日はなんかいいことあるかなぁ。」なんて錯覚できる。


 まぁ、たらたら書いたけど、本題はそこではなくて、その短編集の途中にメモが挟まっていたこと。朝の車内で黙々とページをめくっていると、そのめくった先に見知らぬメモが挟まっていた。それだけなら気にも留めないんだけど、ちょっと引っかかった。


 そのメモは、ホテル名の入った用紙に、ボールペンの走り書きで「P111」って記してあったんだ。


 これはもう、江戸川乱歩だったら、被害者のダイイングメッセージか、はたまた犯人がアリバイ工作のために書いた可能性が高い。きっと事件を解決に導くような重要な鍵に違いない。でもまぁ、ここはそういうことはそうそう起こらない世界なので、きっとなんてことないメモなんでしょうね。うん。分かってる。実際、P111を見てみても何もないのよ。


 じゃあ、どんなひとが書いたんだろう。
 ホテルのメモってことは、泊まっていた場所なのかな。旅行なのか、仕事なのか。部屋で本を読むってことは一人旅?
 女性かな。男性かな。年はいくつなんだろう。
 どんなことを考えながら読んでたんだろう。何を考えてページ数をメモしたんだろう。


 そんなことが一瞬で頭の中を駆け巡った。前の持ち主はメモを入れたことを忘れたまま売っちゃったのかもしれないな。そして、メモに気づくまでは、その持ち主と私は同じ感動を何も知らぬままに共有していた。
 こういうのも出会いだよなぁ。しかも、予期せぬ出会いだ。中古本だからこそ、ふとした瞬間に前の持ち主の息吹を感じることができる。そういう、少し回りくどい出会いもいいもんだと思う。