年越しそば


 毎年、調布の深大寺で年越しそばを食べることにしています。お気に入りの店が二軒あって、そのどちらに入るかをいつも迷ってしまいます。どちらもそれぞれ良いところが違って、気分によって変えられるという贅沢さ。
 大晦日にそばをすすりながら一年間を振り返ると、色々なことがありました。ここまで大きな出来事が起きた年っていうのは、きっとこれから先もなかなかないと思います。一年間で、色々な人と出会いました。彼らと、文字通り泣いたり笑ったりしながら過ごしてきました。本当に辛いと感じる場面にも多く立ちあったし、楽しいと思うことも多くありました。


 僕は被災地の写真はほとんど載せていません。耳にした辛い話も書いていません。でも、被災地へ行くと、本当にひどい光景が広がっていて悲しいことが多いから、笑えることや楽しいことって大切にしなきゃいけないなって思っています。
 東京にいるとしばしば言われます。
「もう東北は復興してるんでしょ?」「好きだねぇ。まだボランティアやってんの?」「そこまでする必要あるの?」
 そういうときには悲しくなります。別に好き好んで趣味でやってるわけじゃない。僕たちは元通りの生活を送れているけど、それがすべてだなんて思っちゃいけない。まだまだこれからなんだよって話すようにしています。忘れないということ、続けるということ、そばに寄り添うということ。そういうことが大切だと思っています。それって、何でもそうだよね。友達が辛い思いをしている時と同じです。


 先日、造形教室を始めるために、朝、集会所を空けました。
 東北の冬は寒いです。断熱材も入っていないプレハブの建物は凍るほど冷えていて、床はそのまま立っていられないほどです。暖房をつけて、寒いねって言いながらみんなで話していると、少しずつ部屋が暖かくなってきました。おはようございますって、挨拶をしながら、参加者の皆さんが入ってきました。少しずつ忙しくなってきて、みんなで笑いながら物を作っていたら、気がついたらあんなに寒かった部屋が暖かくなっていました。ちょっと暑くて一枚脱いじゃうくらい。
 きっと、そういうことなんだと思います。どんなに多くの人が亡くなって住まいがなくなって街がなくなって、生活や光景が変わってしまったとしても、人が集まって少しずつ暖め合って、そうやって過ごして行くしかないんです。そして、少しずつ、心の傷がいやされていくんだと思います。


 僕には何が出来て、君たちにどんなことを伝えられるんだろう。それは分からないんだけど、大人でも君たちと同じように格好悪いくらい悩んだり、自信がなくても踏ん張って前を向こうとしている。そういう姿は見せられるのかな。


 さて、来年はどんな年になるんでしょう。分からないけど、ま、のんびりいきますか。良いお年を!