1日目 (石巻到着と写真洗浄)


 高速バスは新宿駅から石巻駅まで通じています。6/4の早朝に石巻駅に降り立つと、腐敗臭が鼻につきました。あぁ、暖かくなってきたしなぁなんて考えて辺りを見渡しました。きっと、海のほうから臭ってくるのかな。駅前にはわりと人が居ます。歩いて行ける距離じゃなさそうなんで、そこからタクシーを拾って、お世話になるセンターに向かいました。
 駅を出ると、まだまだ復興が進んでいない様が眼に映りました。5月に来たときとあまり変わりません。建物は傾いているし、信号も点灯していません。大きな交差点では警官が交通整理をしています。商店街はシャッターが閉まっているものの、そのシャッターも大きくひしゃげています。店は開いていません。建物の外壁には一本の線が見えます。私の背丈よりも少し低いくらいの高さ。そこまで津波が来たことがありありと分かりました。海からは大分遠いのにな・・・
 川を渡り、少し進むと石巻総合運動公園があります。広大な敷地は、今は自衛隊の駐屯地です。重機やトラックが並び、まるで戦地のようだなぁなんて思いながら見ていました。向かいには、うず高く家電が積まれた廃棄場があります。運転手さんが、この瓦礫はどんどん大きくなるばかりで行き先が決まってないんですよ、なんて教えてくれました。
石巻はボランティアが本当にたくさん来てくれてね。ありがとう。頑張って下さい。」
そう言われて、目的地で降りました。
 お世話になるセンターは、小さなボランティア団体が多く集まっている場所です。着いた時間は7時半。入り口では人がひっきりなしに出たり入ったり。・・・これはどこへ行けばいいんだ。とりあえず入っちゃえ!人が忙しそうに動いているのをかき分け、一番大きい部屋に入り大声で一言。
「今日からお世話になります。○○さんはいますか!!」
 一番手前にいた女性が、このセンターのまとめ役の方でした。
「あ、今着いたのね。それじゃ、5分で支度して!!すぐにバスが出るから!!」
 ・・・・え〜と、どこかでそんな場面があったような。あ、ラピュタか。



 パズーは大変だったよね。何を用意すればいいんだ、これ、なんて思いながらとりあえずは着替え着替え。思い切り汚れるのを想定して作業着に着替えます。えっちらおっちらバスに乗り込み、どうやら活動場所へ到着。・・・倉庫だな。これ。
 なんやら、薄暗くて色々と吊られています。わぁ〜、カビ臭い。尋常じゃね〜な。
「今日は皆さんにここで写真の洗浄をしてもらいます。」
 わ、地味。


 吊られていたのは洗浄された写真でした。まず、取り込んでから、洗浄作業を始めます。
 一瞬、地味だなぁって思ったものの、作業を始めたら考えが変わりました。三ヶ月間、海水を含んでいた写真は膜面がもろくなっていて、少し触っただけで絵柄が消えてしまいます。汚泥にまみれてどろどろになっている物も多く、大変な作業でした。
 子どもの成長記録、旅行の写真、結婚写真、還暦祝い。どれを見ても大切な家族の記録が詰まっています。この人たちは無事に過ごしているのかな。亡くなった方も多いんじゃないのかな。そんなことを思いながら一枚一枚きれいにしていきます。


 お昼は、作業場所から坂を上って行ったところにある日和山公園へ行きました。少し小高い丘になっていて、海のほうが一望できます。
 ・・・何もない。
 山のこちら側の傾いている家を見て大変だと思っていたけど、そんなレベルじゃない。一面、更地と瓦礫になってる。一緒にボランティアをしていた仲間が、今、洗浄作業しているのはあの何もない辺りから発見された物ですよって教えてくれました。



 昼食を終え、作業場へ戻ると一人の男性が居ました。
 大量に発見された写真の持ち主で、小学校の先生をしているそうです。名前が書いてあったので、連絡することができました。ちょうど、一緒に発見された写真の確認をしているところでした。
 誰の物か分かりますか?って訪ねると、分かりますがこの方は亡くなったんですよって返答がありました。心臓を掴まれたような気がしました。・・・当たり前だよな。そういう可能性があるのなんて、あの景色を観た時点で考えないと駄目に決まってるのに。


 作業を終えたのは夕方です。