アンリ・カルティエ=ブレッソン

 アンリ・カルティエ=ブレッソンは20世紀を代表する写真家の一人です。
 フランスに生まれた彼は、若い頃から写真に目覚め、同時期に花開いたシュールレアリスムの影響を受けました。多くの芸術家と交流しながら、1947年に報道写真集団「マグナム・フォト」を設立します。メンバーは、ロバート・キャパ、デヴィッド・シーモア、ウィリアム・ヴァンダイヴァー、ジョージ・ロジャー


 マグナム・フォトには、それまでにはなかった特徴がいくつかあります。

  1. 雇い主からの注文に応じるのではなく、自分の撮りたいものを撮ること。
  2. メンバー全員で発表する作品を選定すること。
  3. 写真のトリミングを禁止すること。
  4. メンバーに担当地域を割り当て、自由に移動しながら写真を撮ること。しかし、何か大きな事件が起きた時には、担当地域外を自由に取材して良い。


 アンリ・カルティエ=ブレッソンの担当地域はアジアでした。観るもの全てを独自の鋭い視点で切り取っていきました。その鋭い視点から、彼の作品は
「決定的瞬間」
と評されています。
 歴史的な場面にも数多く立ち会っています。暗殺数時間前のガンジー、内戦により国民党が破れ共産主義へと移行する最中の中国、冷戦まっただなかのソビエトの人々。それだけではなく、民衆の生活も数多く写真に収めています。報道写真とともに、民衆の姿もするどく見つめ続けたのが彼の優れた点でした。


 さて、ここから先は個人的考えを含めて。
 彼の作品はすごく好きで好きでたまらないんですね。一番優れているところは、構図。すごく構成的で、偶然に生まれた最善の一瞬を切り取っている。

 水たまりを飛び越そうとする男と、水面に映った影。そのコントラストが見事。コンマ数秒ずれても撮れない写真です。まさに、決定的瞬間。

 第二次世界大戦終戦直後のドイツで、ゲシュタポへ内通していた女性と、それを追及する女性、そしてそれを見守る観衆。女性の勝ち誇ったような顔を見ているとどちらが正しいのか分からなくなる。この直後、右の女性は左の女性の頬を叩き、辺りは騒然となる。


 彼の作品は報道写真だけではありません。市井の人々を切り取った作品は、ユーモアにあふれ、カメラマンの視点の温かさを感じます。

 スペインの広場で遊ぶ人々と、ユニークな窓の建物。

 壁に向かって立ち小便をしているものの、ばつの悪そうな紳士。

 お使いを頼まれ、誇らしげな少年。


 構成的でありながら、画面遊びになっていない。報道写真を撮りながら、思想の偏りを感じない。私的な写真を撮りながら、内輪受けになっていない。なかなか、このようにはいきません。
 なんていうんでしょうか。鋭い視点を持ちながらも、非常にバランスがいい写真家です。