昔の話

art-study2009-06-27

 その頃の僕と言えば、小さな世界しか知らずに過ごしていた。
 近所付き合いの盛んな地域に住み、遊び場と言えば団地の中の公園だった。友達を誘うのも下から「○○くん、遊ぼ〜!!」って叫ぶだけで事足りた。ひたすらに外で遊んでいた。
 小学校高学年になると近くの多摩川へ遊びに行っていた。何をするわけではないのだけど、河原を探検して過ごしていた。川の流れを見て中世ヨーロッパもこうだったに違いないと思い、すすき野原を見て他の惑星のようだと感じた。想像力豊かな毎日、新しい発見があった。ある時、犬をつれたおじさんと仲良くなった。ロッキーという黒いシェパード犬は、口が大きくて牙も生えていて、本当に怖かった。でも、目つきはやさしい犬だった。すぐに仲良くなり、毎日のように遊んでいた。
 高校生になっても、多摩川が遊び場だった。何をするわけでもない。数人が集まり、将来の夢や人生について語り合った。時には昼寝もした。暇な時に、河へ行くと必ず誰か仲間がいた。今思えば家庭の複雑な奴が多かったし、少しぐれたような東京郊外の高校生には他に行き場がなかったのかもしれない。携帯電話などない時代。必ず仲間と会える場所があることが嬉しかった。


 それらの生活を支えていたのは、読書だったように思われる。ゲーム機は買わない、マンガは与えない、テレビはほとんど見ないという家庭で育ったため、娯楽は読書しかなかった。外で遊ぶのが好きで、図書館へ通いつめる幼少期。小学生で江戸川乱歩の大人向けシリーズを読了し、海外の小説へ手を伸ばした。ジュール・ベルヌを読み、想像力をかき立てられた。高校生になると宮本輝遠藤周作を読み、人生の奥深さを垣間みた。


 今となって思うと、私の過ごして来た世界は本当にちっぽけなものだった。半径にして自宅から約2km。この範囲にほとんどの思い出が集約されている。