「医学と芸術展」@森美術館


MORI ART MUSEUM [医学と芸術展]

 ずっと気になっていたものの行けなかった展覧会です。ついに行ってきました。一言で表すならば、「ここ数年で一番衝撃を受けた展覧会」。文字通り医学と芸術の関わりに焦点を当てた企画なのですが、そこではとどまらず技術革新のもたらす問題点や、生と死の問題にまで踏み込んだ骨太なものでした。


 展覧会は三部構成。

第一部は「身体の発見」

 医学と芸術の関わりなんて言うと、レオナルド・ダ・ヴィンチの人体解剖図などを想像するじゃないですか。

 こういうのね。たしかにそれらもあるのだけど、あくまで序章に過ぎない。人間が医学的な見地から、いかに表現としての人体を獲得するに至ったかということを伝えていました。

第二部「病と死との戦い」

 大隈重信の義足、ダーウィンの杖、ワシントンの義歯などの歴史的遺物を交えた展示です。ずらっと並んだ義足や義手を観た子どもが
「お母さん、ロボットがたくさん並んでるよ!!」
と言っていたのが印象的。知識なく観ると、かっこいいもの、美しいものっていうふうに見えるんだなぁというのが新鮮な発見でした。
 本展覧会で一番衝撃を受けたのが、「ライフ・ビフォア・デス」という作品。生前と死後の顔の写真を並べて展示したものなんですが、観ていて涙が出ました。可哀想とかそういう気持ちではなくて、純粋に美しすぎて。生と死には明確な違いがあるはずなのに、あまりに荘厳で美という観点からはどちらも等しく価値がある。そのことに気づき、はっとしました。作品のテーマがテーマだけに画像を貼るのははばかられるので、作品を観たい人は以下のリンクから。
http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/1-e390.html

第三部は「永遠の生と愛に向かって

 テクノロジーの進歩がわれわれにどのような影響を及ぼすのか。それを芸術の分野から糾弾するような作品が多くありました。ショッキングなものが多いなかで気になったものは以下の作品。

老人ホーム


 スーパーマンなどのアメリカンヒーローを実年齢で表現するとどうなるかというもの。ヨボヨボのハルクやキャットウーマンを観ると、強いアメリカの象徴も形無しです。

GFPバニー


 画像はイメージ。蛍光クラゲの遺伝子を組み込んだ光るウサギ。実際に生きているそうです(会場にはイメージ図のみの展示)。個人的には、手法は認めたくない。ひどいと思う。当然、各国で論争が起きているそうです。でも、そのひどいと皆が思うはずのことを、われわれは遺伝子組み換え食品などの違う形で推し進めている。極端な例を見せて、矛盾に気づかせるのが目的という作品です。
 <補足>
 この作品は数回、展示されているものの、いつもイメージ図か映像のみです。実は、本当にいるのかいないのか分からない。個人的には、実在しないのではないかと思ったりします。だって、そっちのほうが面白い。
 実在しないウサギが映像技術の力で命を与えられて、実在しているかのように一人歩きしている様が現代の電子社会を象徴している。そんな二重の意味を与えられた作品なんじゃないかと思っています。

腕にある耳


 画像は腕をかたどった像。自らの腕に、人工形成した耳を取り付けている作家。幹細胞を利用して徐々に育てていています。将来的には、マイクを埋め込みインターネットに接続する予定だそうです。そうすることにより、遠い地域からも作家の聞いている音をネットを通じて聞くことができるんだとか。・・・攻殻機動隊みたいだ。



 「メメント・モリ
 こういう有名な言葉があります。「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味で、古くから芸術作品のキーワードの一つとなっています。つまりは、作品を通じて、鑑賞者に生と死について考えさせるということです。
 本展覧会は全編を通じて、メメント・モリがキーワードになっていました。会場は生と死に満ちた不思議な空間。熱気があるものの、どこかひんやりとしている。死が身近であるということと、芸術においては生と死は等価値であるということを感じました。


 惜しくも明日が最終日。本当にいい展覧会でした。詳しく内容を観たい人は以下のサイトをどうぞ。
Web Magazine「エキサイトイズム」 | ism.excite.co.jp